一般社団法人ぷれジョブにとって3年越しの念願だった「浮田要三と『きりん』の世界」展が、いよいよ9月17日(土)に始まります。
この間、このブログでもその進捗をお伝えして来ましたが、展覧会の準備も大詰めを迎えています。先週には、美術館学芸員の中嶋実さんが、いくつものギャラリーやコレクター、公設美術館などを巡って、本展で展示させていただく浮田要三作品を搬入されました。
また、この週末には、少し前に刷り上がったポスター、招待券に続いて、三つ折りの案内チラシが、見事な仕上がりで完成しました。
私は、展覧会の開催を記念したリーフレットの編集を担当して来ましたが、おかげさまでこの作業もあと少しで終わりを迎えます。
途中でも皆さんにお伝えしましたが、これはかつて浮田さんが14年間にわたって、毎月続けておられた実務に通ずる作業でした。今回、春以来の数ヶ月をかけてこの任を負わせていただいた私が感じることは、素材(今回で言えば、ご家族とアトリエUKITAの仲間たちの文章、浮田さんがラジオで語られた音源、ご家族へのインタビュー、美術関係者との鼎談、当時『きりん』に寄稿された文章、当法人からのご挨拶、猿澤恵子さんのイラスト、その他「浮田要三と『きりん』の世界」を伝える写真や資料の数々)を呼び集め、一つひとつの声を聴き、どこに収まっていただくか?を思い巡らし、隣り合って座ってもらい、時には順番を替えてもらったり、という一連の営みがもたらす創造の悦びでした。
インタビューの中で当時を振り返って、お連れ合いの浮田綾子さんは、「経済的には全く赤字でしたけどね」とさり気なく語られます。小学校の先生をしながら幼い一人娘の唯さんを育てたお母さんの存在を抜きにして、「浮田要三と『きりん』の世界」は成り立ちませんでした。今回、この楽屋裏のエピソードもリーフレットの誌面に盛り込んでいます。
今はまだ、展覧会を振り返って何かを語る時ではありませんが、一つだけ、私個人が感じていることをご紹介させていただきます。
それは、ポスターやチラシにも登用させていただいた『夕日の中を走る汽車』を描いた、男の子による1枚の表紙絵についてです。
表紙絵の中では、ボクは『夕陽の中を走る汽車』の画に感動しました。この原画を見ました時に、原画と言っても、本当に薄っぺらい安物の画用紙に描かれた作品でした。けれども、これは絵画的に見ても非常に良いものだし、それだけではなくて、その子どもの気持ち、少し大げさですけれども「魂」のようなものが籠っているように思いまして、非常に好きだったんですね。
これは、リーフレット所載の『世界で一番美しい雑誌を』の書き起こしからの一節です。
この後、浮田さんはこの絵の魅力について語っておられますが、今回の編集作業を通じて私は浮田さんの現代美術作家としての出発点が、間違いなくこの1枚の中に隠されていると感じています。ここに湛えられた、潔さと「ウソの無さ」(浮田さんの言葉)には普遍的な人間の真実を感じます。
(2022年8月28日)
表には浮田さんの帽子の作品、裏には子どもの表紙絵。
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